今年の春闘賃上げ率が5.01%増で、3年連続して5%台となった。過去2年は春闘賃上げ率が5%を超え、消費者物価は年3%台だったにもかかわらず、5200万人を調査対象とする毎勤統計の実質賃金は24、25年とマイナスであった。ようやく大企業中心の700万人の組合員を擁する連合の春闘が効果を上げつつある。
しかし、これで問題解決となったわけではない。問題は2つある。
1つはピーク時(1996年)の実質賃金と比較して2026年上半期は14.6%も下落しており、逸失賃金が発生しているという点である。経営者からみれば未払賃金であるから負債性引当金に計上すべきところ、内部留保金という資本の部に付け替えられている。1996~2025年にかけて実質労働生産性が年0.6%増加しているのに対し、実質賃金は同期間0.6%減だった。経団連のいう労働生産性に見合って実質賃金を決めるべきというのは結局掛け声倒れだった。
2つ目の問題は、企業規模間の賃金格差が長期にわたって拡大し続けているという点だ。第一次石油ショック以降日本は大企業に就職することが生涯賃金獲得の上で有利となっている。たまたま18歳や22歳の就職時が1990年代の就職氷河期と重なれば、本人の努力と関係なく生涯賃金は不利となる。賃金格差が固定され、子ども世代にもそれが引き継がれる社会となっている。
労働分配率の長期低下傾向
1つ目の労働生産性にかかわる賃金の問題は、労働分配率の推移をみることで実態がみえてくる。
労働分配率とは企業が労働者に支払う人件費(W)を企業の生産活動によって生み出された付加価値(Y)で割った比率であり、分子分母を労働者数(L)で割れば、1人当たり名目賃金(W/L)と1人当たり名目労働生産性(Y/L)の比率となる。労働分配率が一定であれば、賃金と労働生産性の増減率は同じになる。
戦後から現在まで労働分配率は4つの期間に分けることができる(図)。

戦後の高度成長期(1954~74年1Q)、石油危機から80年代バブル絶頂期まで(74年2Q~89年1Q)の2つの期間において労働分配率は概ね一定の値を維持し基本的に安定していた。しかし、バブル崩壊からリーマンショック直前まで(89年2Q~07年1Q)と第4期のリーマンショック直前から現在(07年2Q~2026年1Q)になると、労働分配率の低下が顕著となっている。第4期の付加価値は22.8%増に対して人件費は11.7%と半分の増加率にとどまっている。
労働分配率はリーマンショックとコロナパンデミックに急上昇したものの、その後短期間に急上昇する前の水準に戻ったため、この2つを除くと、労働分配率が最も高かったのは76.4%(四半期移動平均値、1998年10―12月)だった。2026年1―3月期には62.5%へと13.9ポイントも低下した。
労働分配率の低下寄与度を企業規模でみると、大企業(資本金10億円以上)が9.5ポイント引き下げており、率にして68%を占めている。大企業の付加価値は全体の38%を占めていて、その構成比の2倍近く分配率を引き下げたことになる。とりわけ大企業のなかで非製造業が6.3ポイントも引き下げている。
大企業でも非正規労働者の割合は3割を超えており、業種別では「宿泊業、飲食サービス業」は76%、「卸売業、小売業」は51%と2年前と比べて比率が上がっている。
賃金格差拡大で金融資産格差も
大企業の労働分配率の低下が著しいにもかかわらず、企業規模の賃金格差は拡大傾向にある(図の二重線)。
企業規模による賃金格差(1人当たり人件費の大企業/中小企業比率)が10年近くの長さにわたって縮まったのは、戦後の高度成長期とリーマンショックからコロナパンデミック直前(2008/1Q~2018/3Q)の2回しかない。賃金格差が拡大傾向にあるのは大企業の労働生産性が高いからである。
中小企業はIT化の進捗が遅れ、21世紀になって生産性が上昇しづらくなっている。何らかの対策を政府が打ち出さない限りますます格差は広がることになる。資本金1億円未満の中小企業で働く従業員は67.1%(財務省「法人企業統計年報」2024年度)となっており、常に老後の生活不安に悩まされている。
賃金格差は1976年1Qの1.51倍から2026年1Qには1.80倍まで広がった。1976年以降、大企業で働く人の貯蓄率を20%、中小企業で働く人は15%、大企業で働く人の金融資産利回り5%、中小企業は3.2%(国債利回りの平均)と仮定すると、2026年には金融資産格差は66倍となる。実際に一世帯当たり金融資産保有額の中央値は720万円(金融資産を保有していない世帯15.7%を含む)に対して、5000万円以上の世帯は18.8%と、2020年の8.9%から株高を反映して急増している(金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査」)。
1つ目の問題については、賃金抑制の結果として内部留保金が著しく増加したのだから、内部留保金課税を導入して、給付付き税額控除の財源に充てることが望ましい。2つ目の問題については、死亡時富裕税の導入で年金額が少ない世帯に対して年金支給額の引き上げを行うことだ。老後の生活を心配する人の6割強が「十分な金融資産がないから」と答えている。






























