骨太の方針2026が閣議決定された。最も重要な「財政目標」については、どうなるのか。
 財政運営の目標としては、債務残高対GDP比率の安定的な低下が「中核」と位置付けられた。プライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)については、債務残高対GDP比率の低下に向け「核にする指標」とされ、比率の安定的低下と整合するように「複数年で管理」されることになる。
 そもそも、自国通貨建て国債しか発行していない国において、政府の債務対GDP比率にそれほど意味はない。理由は、中央銀行が国債を買い取れば、自国通貨建て国債のデフォルト(債務不履行)などあり得ないためである。
 債務対GDP比率の安定という指標はナンセンスであるものの、その上で、グローバル標準に従い、財政規律として「政府債務対GDP比率の安定」を採用したとしよう(日本は採用した)。
 1997年の橋本緊縮財政で日本経済がデフレ化した時期、GDPデフレータ(物価変動率)がマイナスとなり、名目GDP成長率はゼロ近辺(時にマイナス)に沈んだ。すると、国債金利が名目GDP成長率を上回ってしまい、「この状況で政府債務対GDP比率を引き下げるには、政府債務残高を減らすしかない。PBの黒字化が必要だ」と、2001年にPB黒字化目標が導入されたのである。
 結果的に、デフレ脱却のために必要な十分な財政政策が不可能になった。それどころかPB黒字化を追求する日本政府は増税を繰り返す羽目になり、デフレが深刻化し、GDPデフレータのマイナスが続き、名目GDP成長率が落ち込み、政府債務対GDP比率が上昇し、それを理由に、「やはり、早期のPB黒字化が必要だ」という、亡国の議論が展開されてきたのがわが国である。
 特に、PBについて「単年度管理」されたのが最悪だった。毎年、PB黒字化を目指した緊縮財政が推進されることになる。第二次安倍政権発足以降、財務省はPBについて明確に「単年度の財政削減目標」と位置付けたのだ。例えば、2013年、安倍政権下の骨太の方針で、PB黒字化目標について「20年度までに黒字化」と定められた。さらには、18年に「25年度までのPB黒字化」に目標が修正される。

【日本の基礎的財政収支の推移(兆円】出典:IMF ※2025年はIMF推定値
【日本の基礎的財政収支の推移(兆円】出典:IMF ※2025年はIMF推定値


 グラフの通り、日本政府(実際には財務省)は骨太の方針に従い、着実にPB赤字を減らしていった。結果的に、日本のデフレは継続した。20年度はコロナ禍への対策として、PB赤字が50兆円に膨らんだ。それにもかかわらず、25年度黒字化の目標は変わらず、財務省は着実に毎年度、赤字を削減していった。
 PB黒字化目標が存在する限り、財務省は、「●●年度までにPBを黒字化しなければならない。残り期間は■年であるため、毎年度、▲▲兆円、PB赤字を削減する必要がある」と、主張することが可能になり、毎年の予算策定時に、財政を縛ることになる。何しろ、骨太の方針は「閣議決定」されているのである。
 骨太の方針2026により、ようやく財務省の「単年度のPB黒字化目標」が無くなることになった。また、財政規律の目標について、政府総債務対GDP比率が「中核」とされた影響は大きい。理由は、現在の日本がデフレから脱却し、名目GDPが(実質が成長しなくとも)膨らむ状況になっているためだ。
 現在の日本のGDPデフレータは3%を上回る状況になっている。結果、名目GDPは成長を続けている。名目GDPが3%を超す成長を続けるとなると、「名目GDP成長率 国債金利」となるため、政府債務対GDP比率は下落していくことになる。
 無論、国債金利が上昇すれば、名目GDP成長率を上回る可能性はある。とはいえ、国債金利は、日本銀行が「国債買入額」を増額に転じれば、下がっていく。現在の日本銀行は金利調整のため、国債の買入額を減らしているのだ。27年4月に国債買入減額は終了するが、国債金利上昇が「問題」だというならば、減額終了の時期を早めれば済む話である。
 というわけで、よほど実質GDPがマイナス成長にならない限り、「中核」の総債務残高対GDP比率の低下は「達成される」ということになる。PB黒字化目標は「事実上、廃止」となるわけだ。
 もっとも、財務省はPB黒字化目標が実質的に無効化されたとしても、さまざまな手法で緊縮財政を推進してくるだろう。理由は、彼らの「出世」がかかっているためである。