八:何やら怖い怪談が流行ってますね。
熊:あの話か?、俺も怖かったぜ。
蔦重:エゲレスの書き手が、日の本の言い伝えをもとにした「耳なしサナエ」って怪談だな。相当に流行ってるらしい。耕書堂から出したいぜ。
古琴:ほう、どんなんだい。
蔦重:簡単に言うと、トラ殿様の怨霊に魅入られた、世間がよく見えていない、いや見ようとしない、半分盲目だけどひたすら強気のサナエってぇ琵琶法師が、米藩のトラ殿様のところへヨイショしにいったそうなんです。なぜか琵琶を鳴らすのではなくて、クチ三味線でヨイショしまくった。
それはともかく、トラ殿様の怒りを買わないように、訪問前に老中達に頼んで、全身へ「同盟国」「憲法制約」「法律遵守」ってお経を書いてもらったという噂。ただ、耳だけ書き忘れちまった。それでトラ殿様に耳をもぎ取られる、という話なんです。
古琴:それは痛そうだな?。血だらけになったろう。そうか、姐さんが老中や古老の民草の話に聞く耳を持たないというのはそのためか。
蔦重:そのもぎ取られた「耳」の代償がどの程度か、本人が隠すのでよく分からない。トラ殿様の米藩へ次々と、日の本の金銀が流れるようになってしまうと心配する向きもある。
熊:文字通り、日の本からの「出血」が止まらないってやつだな。
八:イラン藩と米藩の争いは泥沼化、ますますトラ殿様の軍勢の怨霊が跋扈しそうだな…。
熊:まったくトラ殿様は、イランといらんことしやがって。
八:こら、真面目な話を茶化すな(パシっ)。
会談の怪談話
古琴:交渉は、目指すものを得ようとすることと、マズイことを避けようとすること、その2つがある。
米藩との会談は、双方が「マズイことを避けようとする」ことに終始した、トリ繕いだったように見えるね。関係を良くすることより、悪くならないようにする。加えて、過度な関わりを互いに避けようとしたわけだ。
八:法の定めがあるので、兵卒の派遣は能(あた)わないと「理解」を求めたって噂ですね。
熊:その法の定めの大本は、米藩から押しつけられたとか、改正したいなんて言っていたんじゃなかったっけ?
八:つまり、相当に皮肉な状況ってことだよな?。
蔦重:米藩がイラン藩を襲った話がいまだに決着がついてねえ。
何やら、令和では石油ってのが特に大事らしいすね。互いに海峡を封鎖して、通す・通さないの、通行税をとるの・とらないのって騒ぎだって聞きやした。
熊:関所か、海賊か。オレ達の時代と変わっていねぇわけだ。
古琴:そもそもイラン藩は、大昔はペルシャと呼ばれていた歴史のある国だ。わが日の本も、大昔にはペルシャから多くの技術や文化を学んでいたらしい。文化程度が高いし、自尊心も半端ない。その意味で、同じイスラム教でも、遊牧民出身のアラブとは大きく違うとされる。新参者の米藩にとやかく言われるのは、あまりにも屈辱なんだろうね。
八:いずれにせよ、人が死ぬのはもう止めて欲しいですね。
熊:そうだよな。特に、子供が死ぬのを見るのはもうたくさんだぜ。
八:ところが、縦を横にするようなトラ殿様だから、盾(たて)を矛(ほこ)にしてもおかしくない。
蔦重:そもそも日の本の書は縦書きだったけど、今や横書きがそれこそ「横行」してるってわけよな。
熊:「楯突く」わけではないけれど、「横槍」を入れることはしねぇってわけか。
八:そこで首を縦にも振らず、横にも振らずなのか。
古琴:さすが江戸っ子、地口・軽口(軽い冗談や言葉遊び)がポンポン出てくるね。
八:悪口になりそうで、ならずに済ます、「寸止め」ってやつでさぁ。
古琴:いやいや、充分になっているよ(笑)。
蔦重:ところで、姐さんは「国を二分するような議論を巻き起こす」って、言ってますよね。
古琴:むしろ、国を二分しないような、適切な政策を考えてほしいものなのだがな…。
「ばけばけ」の続編?
八:ところで、「耳なし芳一」の物語を書いた小泉八雲って草紙書きの夫婦の話、「ばけばけ」という電気芝居が大評判になってましたね。面白かった。惜しまれて、先日終わってしまった。それにあやかった話を、いろんな草紙書きが競っているって噂ですね。
古琴:ほう、どんなんだい。
蔦重:並べてみましょうか。ちょうど、耕書堂でどれを出そうか、悩んでいるところですんで。
「ぼけぼけ」 日の本中が年寄りだらけになっちまって、あっちもこっちもボケた奴ばかりになってしまい、ボケ同士の会話がすれ違う。その一方で、殿様たちはお互いすっとボケて焦点のボケたトンデモナイ政治(まつりごと)をするという、結構真面目な滑稽話。
「こびこび」 威嚇し続ける大国に媚びを売りまくざるをえない、姐さん藩主の悲哀を描いた物語。
「でもでも」 常に、反対のための反対を言う天邪鬼は、何かあると「でも違う」と反論しながらデモ行進。反対のための反対した挙げ句に末路を迎えた連中の物語。
「コレコレ」 常に番所に座って道行く者に小言を言う十手持ちの子孫が、後の世になってから常に民草に「コラコラ」と威張る警官になり、今は霞が関村で偉そうにふんぞりかえるようになっていく立身出世物語。
「ぐずぐず」 何事も決められずに、グズグズと時を経て、最後になってから大忙しでトリ繕いをするという城中の侍たちの、“グズの大忙し”という身につまされる物語。
「ごてごて」 「ぐずぐず」をさらに国民的な物語に近づける話もありますぜ。
常に、様子を見ましょう、といってグズグズして何もやらない、水戸黄門様によく似たお殿様とお付きの一行が、結局どうしようもなくなってから立ち上がり、ついにはご紋という権威をかざして暴力的に強行策を推し進める話。後手後手に回りつつも、最後は一件落着に持ち込む、という痛快なのか、情けないのか、よく分からないところが面白い物語。
「かくかく」 頼まれた草紙をいつも「書く、書く」と言うだけでちっとも書かない詐欺師の物語。
古琴:耳の痛い話だな。私がよく言われていることだ。まさか…。
蔦重:いえいえ、旦那の話ではありません。似たのもあるんですぜ。
「だすだす」 これは逆に、本を「出す、出す」と言うだけで、ちっとも本を出さない野郎の、女房の苦労話。
八:なんだ、こっちは蔦重の耕書堂の話かい(笑)。
古琴:なるほど、どれも読んでみたいね。
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毎度の戯れ言・与太話、お粗末さまでございました。

























