しかし、あのとき現場で肌で感じた衝撃と、テロリズムがもたらす底知れぬ恐怖は、今も私の中で鮮烈に残り続けている。
衝撃的テロの勃発
2001年9月11日、米東海岸で乗客を乗せた大型旅客機が国際テロ組織アルカイダのメンバーに4機同時に乗っ取られ、ニューヨークの世界貿易センタービル(110階建て)2棟とバージニア州アーリントンのペンタゴン(国防総省)に次々と火だるまとなって激突するという前代未聞の大惨事だった。残る1機は議会議事堂を標的としていたが、乗客・乗員の反撃で操縦を失い、ペンシルバニア州の草地に墜落炎上した。
犠牲者の総数はテロ実行犯19人を含む2996人。犠牲者の数の多さもさることながら、ハイジャックされた民間機がミサイルとして使われたこと、そして繁栄の象徴である世界貿易センタービルや国防の中枢であるペンタゴンが攻撃された事実は、米国社会をかつてない恐怖と混乱に陥れた。
現地の証券会社に勤めていた米国人の友人が「あっという間に20人以上の友人を失ってしまった」と涙ながらに私に電話をかけてきたことを、今も忘れない。
事件後に再開された米国向け直行便で、私はすぐさま現場に向かった。
そこに広がっていたのは、信じられないほど脆く崩れ去った世界貿易センタービル跡、そして難攻不落とされたペンタゴンが巨大な鉈でたたき割られたようにぱっくりと口を開き、なお炎を上げている光景だった。
周囲の人々は茫然と立ちつくし、言葉を失っていた。怒りよりも深い喪失感が辺りを支配しているように感じられた。
尽きないテロの素地
怒りに燃えたブッシュ大統領は議会の演説で同時多発テロを「新しい戦争」と位置づけ、「テロ組織と徹底的に戦う」と宣言した。
米国はその後、アフガニスタン、イラクへと戦線を拡大し、20年に及ぶ「対テロ戦争」へ突入していく。
しかし、テロ撲滅には今なお程遠い。イスラムの名の下に武力闘争を正当化するジハード運動は、中東からサヘル・西アフリカ、南アジア、欧州の一部へと拡散し、局地紛争とテロは慢性化している。
背景には、貧困、政治的抑圧・社会的疎外、経済格差、宗教的アイデンティティなど複合的要因が、テロを生み出す温床となっているからだ。
米国での取材中、ボスニアから来たというタクシー運転手は「9/11は米国の横暴が生んだものだ」と吐き捨てるように語ったことがある。グローバル・スタンダードの名の下に、自分の価値観を世界に押し付けようとする米国と、それを拒む文化圏との軋轢が背景にあるというのだ。
敗戦後、米国一辺倒の政治、経済、文化をあまりにも簡単に受け入れてきた私のような日本人にとって、その言葉はショッキングだった。考えてみれば、私たちはどれだけテロを生み出す背景を理解しているのだろうか。
新たなフェーズに突入
そして今、米国は史上最悪のテロ攻撃から25年という節目を迎えながら、新たなテクノロジーの脅威に対処する構えは驚くほど脆弱にみえる。
最も差し迫った脅威は、無人航空システム(UAS)、すなわちドローンである。ロシア・ウクライナ戦争、10月のハマスによる攻撃とそれに続く中東全域での戦火、そして米・イスラエルとイランとの緊張など一連の事態において、ドローンは国家間戦争とテロリズムの双方で決定的な役割を果たすようになった。
にもかかわらず、都市や人口密集地、重要インフラ、軍事施設など自国領土を防衛する米国の能力は依然として不十分だ。連邦航空局(FAA)の記録によれば昨年の第1四半期だけで、米国の空港上空における違法ドローン飛行は400件以上を超えている。
さらに、デジタル技術に精通したテロ組織によるソーシャルメディアの「武器化」、殺傷能力を高める自立型兵器、急進化した若者層など、新たな脅威も顕在化している。
2001年当時、米国が直面していた敵はアルカイダという単一の存在だった。しかし今日では米国は国内外の多様で複雑なテロの脅威に晒されていると言っても過言ではない。
思い返せば9/11事件はハイジャック攻撃だけで終わらなかった。
同時多発テロから1週間後の9月18日、米国内のニュースメディアや複数の国会議員に不審な郵便物が届けられていた。封筒の中の粉末に触れた写真編集者ロバート・スティーブンスは重篤化し、翌月死亡。粉末は兵器化された「炭疽菌(anthrax)」だった。
米国疾病対策センター(CDC)の調査によれば、感染者は全米で22人、うち11人が重篤、5人が死亡した。封筒には「アメリカに死を」「お前たちは我々を止められない」などの脅迫文が記されていた。
ベストセラー作家トム・クランシーの小説『合衆国崩壊(Debt of Honor)』では、イランの過激派がエボラ熱ウイルスで米国を攻撃する。しかし熱血漢の主人公ジャック・ライアンが急遽大統領に就任し、未曽有の危機から米国を救う。だが現実の世界では、物語のように都合よく事態が収束することはない。































