2025年度の実質GDP成長率は前年度比0.8%増だった。政府は年度が始まる3ヵ月前の時点で1.2%増と予想していたので、0.4%下回った。
 小泉純一郎政権以降、歴代内閣は「骨太の方針」や「アベノミクス」などに象徴される構造改革によって経済成長を高めようと、中長期の実質GDP成長率目標を年2.0%程度としてきた。ところが、毎年1月に公表される次年度の政府経済見通しになると、2001年度以降、2.0%の見通しを出したのは6回しかない。そのうち現実の成長率が2.0%を上回ったのは2013年度と2021年度の2回のみだった。
 2001年度以降、政府の実質GDP成長率見通しを平均すると、年1.6%増だった。一方、実績値はその半分にも満たない0.7%増にとどまっている。政府は平均して1%近く甘めに予想していたことになる。しかも、現実の成長率は年を経るごとに年0.01%下落しているにもかかわらず、政府見通しは年0.03%高く予想する傾向があった。現実を鑑みることなく、次年度、そして中長期の成長率見通しを高く見積もり、国民に「心配などするな」と言っているようだ。しかし、国民は賢いので、政府の甘言に惑わされることなく、消費を我慢し、将来に備えて貯蓄に励んでいる。
 高市早苗内閣は経済見通しに関する中長期展望について、今年の夏に取りまとめる「日本成長戦略」で定量的に明らかにする方針である(2026年2月20日施政方針演説)。
 内閣府は毎年1月に「中長期の経済財政に関する試算」を公表しており、それによれば、成長移項移行ケースで実質GDP成長率1.4~1.6%(名目3.0~3.2%)、過去投影ケースで実質ゼロ%台半ば(名目1.1%)となっている。さらに参考として高成長実現ケースとして実質1.8%(名目3.4%)を紹介している。「強い経済」を標榜する高市政権は超楽観的な成長率目標を掲げる可能性が高い。

四半世紀にわたって幻想振りまく政府経済見通し


 政府経済見通しは次年度を予想するから短期目標であり、中長期見通しを示す成長戦略は5年から10年先の望ましい日本経済を描いている。
 政府の短期見通しが小泉政権以降25年間の平均で実質GDP成長率1.6%と、自ら掲げる中期展望2.0%に達していないということ自体、成長戦略が破綻していることになる。非現実的な政府の短期見通し以上に外れている中期展望は超楽観的だ。
 政府見通しの何が間違っていたかについては、名目GDP成長率=実質GDP成長率+GDPデフレーター増減率という関係があるから、3つの変数にわけて、各々実績値と政府見通しのギャップをみることによってわかる。
 ロシア・ウクライナ戦争が勃発した2022年度以降、GDPデフレーターが持続的に上昇に転じた。そこで、2001年度から21年度までと、22年度から25年度までの2つの期間にわけてみると(下図)、前者の期間は3つの変数いずれも実績値が政府見通しを年平均で0.5%から1.5%の範囲で下回った。
当てにならない政府の経済見通し
当てにならない政府の経済見通し

 ところが、ロシア・ウクライナ戦争で原油等資源価格が上昇し、物価が上昇に転じると、政府のGDPデフレーター見通しは一転、実績値を大きく下回る控え目な見通しをたてていた。
 2つの期間一貫して、現実の実質GDP成長率は年0.7%増と、中長期見通しの2.0%からほど遠い。成長戦略が功を奏さなかったのは、全要素生産性(TFP)が高まらなかったからだ。
 2001―21年度においてTFP成長率は年0.7%だったが、22―25年度のそれは0.5%増へと鈍化していることから、イノベーションを軸にした成長戦略は幻想だったことになる。

「技術進歩教」の信徒となった21世紀の日本政府


 2012年末に誕生した第二次安倍晋三政権は半年後に「日本再生戦略~Japan is Back」を公表した。そこにはイノベーションへの期待が滲み出ている。
 例えば、「国の総力を結集して『技術で勝ち続ける国』を創る」とあり、成果目標として「今後5年以内に科学技術イノベーションランキング世界1位(世界経済フォーラムでは現状5位)」と勇ましい。
 ところが、6年後の2019年の日本のランキングは第6位とランクを落としている(20年以降コロナパンデミックの影響で未公表)。国連の世界知的所有権機構(WIPO)が公表するグローバルイノベーションインデックス(GII)でみても、19年15位から25年12位とわずかに上昇しているにすぎない。
 カール・シュミットは1929年に「倫理・政治・社会・経済のあらゆる問題は、この技術の発達の支配を受けた。相つぐ驚異的な発明・応用は、民心に対して巨大な暗示力を持ち、ここから他の諸問題は、すべて技術の進歩によっておのずから解決すると信ずる、技術進歩教もいうべき宗教が誕生した」と予言していた。
 見通しのみならず、現状についても政府は「デフレを脱却したとは言えない」と発言したり、ナフサ(粗製ガソリン)を使った化学製品の国内供給について、「年を越えて継続できる見込みとなった」と報告したりするなど国民に真実を伝えない。官邸が技術進歩教の総本山となったことで、国民は信教の自由を奪われ異を唱えると「魔女」にされかねない。