トランプ政権が民主主義を破壊している。スウェーデンの民間研究所V-Demが毎年公表している「デモクラシーレポート」の2026年版は衝撃的だ。
 米国は2025年に自由民主主義国(Liberal Democracy、以下LD)から脱落し、初めて選挙民主主義国(Electoral Democracy、以下ED)にランクダウンした。LDもEDも民主主義体制国である点に変わりないが、三権分立、すなわち立法と司法の行政府に対する監視が甘かったり、表現の自由が制約されたりすることがあれば、定期的に選挙を実施していてもEDの範疇に分類される。
 米国の民主主義のピークは2013年で、その後後退に転じた。とりわけ2017年のトランプ政権一期と二期において衰退が著しい(図)。V-Demのリベラルデモクラシー指数でみると、一期目の4年間で0.08ポイント低下し、二期目は就任して1年で0.18減と1789年以来、トランプ政権が第1位と第2位の不名誉な記録保持者だ。
 もはや米国は自由世界のリーダーとは言えない。むしろ、専制国家に分類されている選挙専制国家(Electoral Autocracy、以下EA)に近づきつつある。EAには選挙を実施しているが、表現や報道の自由が制限されている国が分類され、ロシア、ベネズエラ、イランがその代表だ。
 LDに分類されるのは、2025年時点で31ヵ国、人口比でわずか7%(6億人)にすぎない。EDを含めて民主主義国全体でみても人口比26%にすぎず、調査対象国179ヵ国のうち87ヵ国と過半数を下回っている。一方、閉鎖型独裁国家(Closed Autocracy、以下CA)も含めた独裁体制国家は92ヵ国、人口比で74%と民主主義国を圧倒している。
 世界GDP比でもみても21世紀初頭に6割を超えていたLDが4割を切ったことからすれば、民主主義は生き残れるのかと懸念を表明せざるを得ない。民主主義国であれ、独裁体制国であれ、独裁体制に向かっている国が現在44もあるのに対して、民主化に向かっているのはその半分以下のわずか18ヵ国しかない。

1世紀前の米最高判事の警告vs.30年前のフリードマンの超楽観論


 米国最高裁判事ルイス・ブランデイス(在1916―39年)の指摘は21世紀のわれわれに選択を迫っている。彼は20世紀初めに「我々は民主主義の世界に生きることができるかもしれない、あるいは富が少数の手に集中する世界を選ぶことができるかもしれない。しかし、その両方を手にすることはできない」と警告した。
 当時1920年代の米国は「狂騒の時代(ROA-ING TWENTIES)」で、金持ちとなった多くの成金が浮かれていた時代だった。三代続いた共和党大統領は、企業よりの政策を遂行し、「アメリカの仕事(ビジネス)は企業(ビジネス)である」とクーリッジ米大統領(在1923―29年)は言った。ビリオネアが跋扈する現在の社会状況と非常によく似ていた。
 一方、ネオリベラリズムの教祖であるフリードマンは、ブランデイズと全く正反対の見解を持っていた。
 フリードマンはハイエク(1899―92)の『隷属への道』(初版1944年)1994年版の序文で、あからさまに自由主義を礼賛。「個人的な諸価値が樹立されるためには、個人主義的な社会をまずもって築かなければならない。というのも、この社会は自由主義的秩序の下においてだけ、建築可能だからである」そして、「自由市場こそが本当に『参加的な民主主義』を達成するためにこれまで発見された唯一のメカニズムだ」とまで言い切っている。
 しかし現実は、米国は既に自由民主義の旗手ではない。
 フリードマンの当てが外れたのは、「市場」に対する絶対的な信頼を置いたことに問題があったからだ。市場はいつも公正な価格を決めるとは限らない。とくに、資本の自由化で米国を除く先進国の過剰貯蓄がリアルの経済の実物投資に向かわず、資産と資産の交換を行うシンボルの市場、具体的には株式市場と為替市場に流れ込み、資産価値を膨らませる。AIも人間の欲望を膨張させるシンボルだ。これらはいずれも経済的格差を拡大させ、中間層を没落させている。

ネオリベラリズムの起源は16世紀スペインサラマンカ学派


 フリードマンは大恐慌後のケインズを中心としたニューリベラリズムに反対し、古典的自由主義に回帰することを主張した。彼の言う自由主義とは、政府その他による外部からの干渉がない自由市場を意味していた。市場が真理であるとし、政府の干渉は真理を捻じ曲げると考えた。その狙いは市場が政府のコントロールの外に立ち、何が正しくて何が間違っているかを市場が外から政府に指示することだった。
 ネオリベラリズムの起源は新古典派にあるのではなく、16世紀のスペインサラマンカ学派にある。この点はハイエクが自ら認めている。
 サラマンカ学派の主な主張は、市場メカニズムを重視する主観価値説であり、市場に対する不当な干渉を排除することなど、ネオリベラリズムの主張と重なる。サラマンカ学派はスペイン帝国の南米支配を正当化する学問であった。その典型例が、南米の異教徒がキリスト教に改宗しない場合は、所有権を奪っても罪に問わない。ネオリベラリズムは資本の帝国の僕であって、中間層の資産略奪を正当化するイデオロギーだ。
 米国が自由民主主義国家から脱落し、米国・イスラエルとイランの戦争の仲介にパキスタンが乗り出した。パキスタンはEAに分類されグローバル・テロリズム指数は世界ワースト2位の国である。日本などLDの出番がなくカヤの外に置かれていること自体、21世紀は暗黒世界だと示唆している。