1971年にインテルがマイクロプロセッサーを開発して以来、現在に至るまでの技術革新を第三次産業革命、あるいは情報革命と称している。「革命」と言えるためには、社会に広範な影響を与え、近代国民国家の時代においては結果として国民の生活水準の向上に資するものでなければならない。過去最も大きな影響を与えた第二次産業革命(1870~1900年)と比較することによって、第三次産業革命が「革命」に値するかどうかを判定することができる。
第二次産業革命による発明が現在の豊かな生活を可能とした。具体的には電気、内燃機関、上水道、室内トイレ、通信、娯楽、化学、石油などである。この革命は1890~1972年まで80数年間にわたって労働生産性を飛躍的に高めてきた。米労働生産性統計によれば、この間労働生産性は年率2・33%で上昇し、累計で6・5倍となった。労働生産性に概ね比例する生活水準は飛躍的に上がったことになる。
一方、第三次産業革命の発明は、PC、インターネット、スマホ、AIなどであり、技術面で比較すれば、第二次のそれと比べものにならないほどに高度だ。ところが労働生産性でみると、1973年から2024年の間、わずか2・5倍(年率1・84%増)しか上がっていない。
米国の著名な経済学者ロバート・ゴードンによれば、「第三次産業革命は、第二次に比べると取るにたらないものだった」と手厳しい(欧州のシンクタンクCEPRに掲載の論文『IS U.S. ECONOMIC GROWTH OVER?』:米国の経済成長はもう終わったのか? 2012年)。
生活水準向上の鍵を握る全要素生産性(TFP)
労働生産性上昇率はTFP上昇率と資本装備率(K/L)に分解できる。TFPとは資本(K)と労働(L)を増やすことなく経済が成長できる率をいう。資本が十分満ち足りている成熟経済においては、資本装備率を引き上げることによって労働生産性を上昇させることは難しくなる。K/Lが一定比率になると、労働生産性はTFP上昇率と等しくなる。
米国以上に成熟化している日本の場合、2001年以降現在までTFP上昇率が年0・6%増に対して、労働生産性は0・4%増と概ね同じとなっている。米国の場合は、第三次産業革命においても第二次と同じ程度に資本装備率が伸びているため、労働生産性はTFP(年0・9%増)を1%強ほど上回って伸びている。
51年経過して生活水準を2・5倍に引き上げた第三次産業革命は、80年強に及ぶ第二次の6・5倍に見劣りする。加えて問題なのは、いつまでも外国資本を米国に引き込んで資本(K)を増やしても限界がある。移民を制限するトランプ政権では労働量(L)の増加率が鈍り、Kの稼働率が低下してくるからである。
生活水準は、最終的には全要素生産性を高めることができるかどうかにかかっている。米国の19世紀末から現在までのTFPの推移をみると、19世紀末から1950~59年にかけて上昇率は加速し、その後1980~89年にかけて鈍化した(図参照)。第三次産業革命期のTFPは年1・0%の上昇率と低迷している。

注:たとえば、1899年は1889年から1899年までの平均伸び率出所:tatistics of the United States, Colonial Times to 1970、サンフランシスコ連銀
労働生産性やTFPでみると、第二次のほうがパフォーマンスが良好で、現実の生活で比較しても苦役から解放は第二次革命が圧倒的に大きい。1886年のノースカロライナ州の調査によれば、当時の生活が大変だったことが記されている。洗濯や料理、室内便器のために水を運び、使用済みの水も運び出す必要があり、85年のノースカロライナ州の主婦は、平均的に年間148㍄(237㌔㍍)を歩き、35㌧の水を運搬していた。それを上下水道の完備で解消したように第二次革命の恩恵は多くの国民に行きわたった。
第三次革命の恩恵は上位1%の金持ちが独占
これに対し、第三次革命は上位1%の金持ちに恩恵を集中させている。
サミュエル・サエズの分析によれば、1993年から2022年の間、米家計の実質所得(キャピタルゲインの実現益を含む)は35%増加した。しかし内訳をみると、上位1%は123%増加(2・23倍)したのに対して、下位99%は20%増だった。30年間で増加した実質所得のうち半分を上位1%が占めていた。とくにコロナパンデミック以降になると、所得増のうち上位1%が81%を占めるまでとなった。ごく少数の金持ちが第三次革命の成果を独占している。
21世紀の労働生産性には6つの逆風が吹くとゴードンは予想している。①人口構成の変化(労働生産性を0・2%減、以下同じ)、②教育達成度の鈍化(0・2%減)、③格差の拡大(0・5%減)、④グローバリゼーションとICT(情報テクノロジーとコミュニケーション)の相互作用(0・2%減)、⑤エネルギーと環境(0・3%減)、⑥家計と政府の過剰な債務(0・3%減)の6つであり、これを合計すると1・6%減となる。1987~2007年までの労働生産性は年平均1・8%増だったので、逆風による1・6%を差し引くとわずか0・2%増。これが2100年までに起きるというのがゴードンの予想だ。
ゴードンの予想とサエズの分析を組み合わせると、コロナパンデミック以降、下位99%の人々の実質所得は全米の伸び率とくらべて1・1%も低いため、全体の所得の伸びが0・2%増に鈍化すると下位99%の生活水準は0・9%減(=0.2%-1.1%)となる。
このままでは聖職者と貴族(ヨーロッパ社会の人口の2%)が支配した中世身分社会に回帰してしまう。第三次産業革命が発するメッセージは「もはや近代ではない」ということである。
























