生成AIが“技術発明”を始めた! 
 前回お話ししたように、知財関係者や弁理士、研究開発者の集まるわれわれの研究会で、ある技術チャンク(研究開発者の知見の塊)からどれだけ“発明”を見いだせるかを検討し、もう出尽くしたというところまで〝発明〟開発を行った。その上で、同じ技術チャンクを生成AIに与え、「このチャンクを源として〝発明〟をせよ」と指示をしたところ、なんと、生成AIはアッという間に、研究会で出尽くしたはずの数を超える〝発明〟をしてみせたのだ! しかも、われわれが思いつかなかったような観点からの〝発明〟の切り出し・抜き出しがあったのである。
 この生成AIによる“技術発明”の衝撃について考えてみよう。

生成AIが技術〝発明〟をする


 生成AIによる〝技術発明〟の衝撃は主に3点に整理できる。
 第1は、研究開発の仕方が大きく変わる、ということだ。もちろん、既にサイエンス(理学:科学)の領域では、アルツハイマー病解析からナスカの地上絵の発見まで、既に多くの生成AIの活用がなされている。他方、エンジニアリング(工学:技術)、あるいは技術開発の領域でも本格化され始めている。
 生成AIの〝発明〟 レベルは、まだ大発明とか基本発明には至らず、応用的な技術にとどまっているようだ。だが少なくとも、ある技術的な手掛かりがあると、それを多方面から検討し、技術展開するには十分のようである。つまり、応用的な〝発明〟や用途開発的な〝発明〟については、かなりの領域で活躍できそうなのである。おそらく、こちらが出す指示(プロンプト)次第で、かなりのレベルまでいくだろう。この先、技術開発が加速的に進展することは間違いない。
 企業のR&D部門(研究開発部門)の一部では、生成AIを通じて社内技術が流出するリスクを恐れて、使用禁止にしているところもある。ただし、(特に政府系の)研究機関では、建前では禁止しているものの、実態は有名無実であるらしい(公的偽善?)。だが、技術の研究開発者は情報流出リスクをヘッジしつつ、適切に生成AIを活用して、テーマ選定の段階から生成AIを活用すべきではないか。
 生成AIによる〝発明〟を促進し、大量の〝発明〟のどれを出願するのか、それも生成AIと相談しながら選択する…、企業のサイズに拘わらず、事業基盤を技術とする企業ならば、研究開発の潮流の大変化に対応することが求められるのだ。ただし、中長期的には次の問題もある。

生成AIの大量発明がパテントトロールを呼ぶ


 第2は、〝発明〟の特許出願審査の問題である。実は既に某超大企業が、社長名で万に及ぶ超大量の特許を出願したらしいという噂が霞が関方面から頻繁に聞こえてくる。特許庁は、特許出願の内容は出願日から1年6ヵ月経ってから公開することになっているので、詳細はまだ明らかではない。だが、これが本当だとしても驚くにあたらないだろう。問題は、その先である。
 1つ目は、超大量の出願を社長自身ができるわけがない。生成AIを使って〝発明〟をしたはずだ。しかもその出願書類の作成も、知財部門や外部の特許事務所が最終チェックをしたにせよ、生成AIが下書きしたはずだ。なぜ社長名だったのか。現在のところAI名で出願は受理されてないので、その企業で生成AIに作成させろと指示した社長名となったのだと推測される。
 2つ目は、この万に及ぶ特許出願を誰が審査するのか。たとえ特許庁の審査官が総出で対応しても、短時間に審査することはできない。とすると、出願審査自体を生成AIにさせることになるはずではないのか。出願も生成AI、審査も生成AI…何とシュールな状況か!
 3つ目は、もしこれらの大量出願が認められて特許となったら、どんな事態が起こるだろうか。まず「パテントトロール」があらわれ、保有特許権を侵害している疑いのある企業に対して、その特許の権利を行使し、巨額の賠償金やライセンス料を得ようとするだろう。そればかりではない。大量特許出願でトロール化するところが頻出するだろう。そうすると、トロール同士の合戦も始まるかもしれない。いずれにせよ、裁判所、特に知財高裁はパンクするだろう。
 4つ目には、とすると、生成AIが〝発明〟を行い、その審査を生成AIが行うという事態はどのようになるのか。人を介さず〝発明〟が扱われる。これは現在の特許制度、知財制度がまったく想定していなかった事態だ。既に専門のAIには、世界中の特許制度の法律と運用の詳細や過去からの出願書類、知財紛争や裁判における判決事例等々、知財関係の全てが蓄積・分析されている。それは生成AI以前の超高性能コンピュータでも10年以上前からやっていたことだ(例えばIBMのWATSON。ただし当時は〝人工知能〟ではなく〝認知コンピューティング〟と呼ばれていた)。
 これらが、現行の知財制度を崩壊させることは、十分に考え得るだろう…。

弁理士の大多数は不要に?


 第3に、生成AIが特許出願の代理・代行を実質的に行うなら、従来、出願代理業務を生業とする弁理士の大半は職を失うことになるのではないか。
 確かに、弁理士や知財部員はすごい。例えば、知財権について尋ねると、即座に「それは特許法の○○条にこう書いてある」と答える。さすが専門家と感心するが、世界の特許制度の詳細と過去の特許や判例を全て読み込んでいる生成AIに対抗できるとは思えない。
 弁理士は知財コンサルタントに転換すればよい、という話を聞かないわけではない。特に中堅・中小企業では知財担当者が不足しているからだ。だが、弁理士の大半は現在の知財制度に精通してはいるものの、ビジネスや経営については素人同然だ。何も財務諸表を読めればよいというものではない。そうではなくて、事業という営みの本質、ビジネスやビジネスモデルの基本、ビジネスモデルと知財マネジメントの関係などを理解しているか、である。残念ながら、それらに対応できる弁理士や知財部員は限られている。
 他方、企業の知財部門も大きく変わらざるを得ない。研究開発部門から出てきた〝発明〟候補を吟味し、外注先の特許事務所に渡して出願書類を書かせ、訴訟対応や知財権交渉をする、という現在の業務は大幅に様変わりするだろう。つまり、知財関連部門や知財人財の役割期待が変わるのである。
 次回は、この生成AIがロボットに実装された時に何が起こるか、その衝撃について考えよう。
(本項つづく)