その継承が、企業の大小を問わず、多くの製造業の悩み事となっている。一つ解決策がAI活用だ。ただし、それにはいくつかの段階がある。
そもそも「技能継承」とは、技能工Aが体得している暗黙知・身体知を次世代の継承候補Bに伝授・修得させる、というものであった。この典型かつ頂点は、例えば、「人間国宝」(伝統芸能や伝統工芸等の重要無形文化財に関する認定保持者)であろう。
ちなみに、昨年度の大ヒット映画『国宝』に描かれた中心テーマは、歌舞伎の世界における「血統・血筋」「家柄」の問題だった。他方、落語の世界では「家系」はほぼ関係ない。むしろ「一門」の芸風の継承が重要である。
さて、現在のAI活用による「技能継承」は第1段階だ。技能工Aの技能をセンサーを多数駆使して満遍なくとらえ、そこで得られたデータを解析して要所を把握、その作業を教科書として継承候補Bが学ぶ(まさに、「学ぶ」という言葉の語源が「まねぶ」だと分かる)。
第2段階も始まった。技能工Aの動作を継承候補Bではなく、ロボットXへ継承するのだ。つまり名人の技能作業を元に、ロボットの動作を制御するプログラムを開発、そのプログラムをロボットに注入するのである。ロボットXは、技能工Aのあるレベルまでは引き継げる。ちなみにロボットXに継承された技能は瞬時にロボットYに移転・共有できる。
ロボットが自律的に技能開発していく
現在は第3段階に入りつつある。通常のAIではなく、生成AIを実装したロボット(フィジカルAI)に、技能工Aの職人技を、そもそも開発の段階から自律的に行わせるのだ。これは、継承というより、開発と洗練的展開を意味する。
例えば、大型の先端ハイテク機器の操縦スキル/テクニック自体も自ら試行錯誤で学習することも可能になる。つまり、教科書があるのではなく、ある意味で、生成AIロボット自体が自ら教科書を体験学習を通じて書くのである。それは「技能の開発と修得という人手作業を、全面的に生成AI搭載ロボットに自律的に代理・代行させる」ということである。
これは、既に確立した人手技能の代理・代行だけに留まらず、人手相当の「技能」を自ら開発する生成AIロボットの「技術」の開発が産業競争力の要諦になるということである。そして近未来的には、ロボットXが自律的に自学自修して各種技能を自主開発し、それを隣のロボットYへ瞬時に継承(シェア)するという形をとるだろう。すなわち技能継承の問題は解消する…。
このような生成AIロボットが活躍する場と機会の活躍分野は、当然モノづくりの現場である。だが私は、むしろ「モノばらし」に注目している。この分野はサーキュラーエコノミー(資源循環経済)に向かって、未開拓のブルーオーシャンであり、かつ、安全担保が未確立の分野だからである。つまり、サーキュラーエコノミーにおける「モノもどし」がイノベーションターゲットとなる。具体的には、次の3領域だ。
①モノくずし・はがし・はずし・ほぐし・ばらし・つぶし
②モノ選び・モノ分け・モノ集め・モノ貯め
③モノ運び
ちなみに、この時にわれわれがすべき設問は「そんなことできるのか」ではない。そうではなくて、「そのようにさせるには、どのような初期値を設定し、その後どのようなプロンプト(指示と評価)を与えるのか」であるだろう。
生成AIロボットの倫理的側面
他方、生成AIロボットの倫理的な側面を見れば、問題と懸念も同時に指摘しなければなるまい。その問題は、モノばらしの最たる「破壊」である。つまり、兵器の自律的な自学自習である。特にドローンが戦闘機化する中、非操縦型の自律攻撃兵器の開発競争が加速している。
あるいは医療手術を生成AIロボットが代理・代行する場合だ。手術用のロボットは、例えば、米国のダビンチ(インテュイティヴ・サージカル社)や日本の「hinotori」(メディカロイド社)等の努力で高度医療の進展に貢献がなされている。この場合、医師の手による操縦なので、その意味では高度医療機器(道具)の範疇だろう。だが今後、生成AIロボットによる「準代理・代行」に進展したらどうなるか。生成AIロボットが、勝手に患者を学習材料にして切り刻むことがないと、誰が保証できるだろうか。それこそ、「人体実験」の悪夢が復活しうるリスクはないのか。すなわち「技術のデュアルユース問題」である。良い技術と悪い技術があるのではない。技術の良い使い方と悪い使い方があるのである。
これらの問題と懸念を踏まえると、SF作家アイザック・アシモフが提唱した有名な「ロボット工学三原則: Three Laws of Robotics)」(アイザック・アシモフ『われはロボット』1995年刊、早川書房〈ハヤカワ文庫〉)が、現実的に深い意味を持つことが分かる。
第一条(人間への安全性):ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条(命令への服従):ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条(自己防衛):ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない。
この原則のような法制化が必要だと言わざるを得ない。
日本をはじめ先進諸国では、生成AIに関するアジャイルガバナンスの必要性が既に議論されている。私は経産省委員会においてアジャイルガバナンスの適応領域の拡充(循環経済等)を訴えた。そして今や生成AIロボットまで対象を拡張すべきだと提案したい。
いずれにせよ、生成AIがロボットに実装されると「即時的自学自習」が始まり、従来ヒトが行っていた暗黙知・身体知の生成が代替される可能性が出てきた。それは、技術・技能の関係性と技能の生成・習得・継承を変容させることになるだろう。そして、今後我が国の「モノづくり」と「モノばらし」産業の今後を担うことは間違いない。
だが同時に、この技術は功罪の両面を持つ(技術のデュアルユース問題)。ガバナンスを間違えると人類への厄禍を呼び込みかねない(フランケンシュタイン・コンプレックス)。その懸念も同時に強く感じざるを得ないのだ。























