アメリカがマドゥロ大統領を拘束したことで、昨今話題のベネズエラの経済は、大げさでも何でもなく崩壊状態にある。
 2018年、19年には、定義通りのハイパーインフレーション(インフレ率年率1万3000%超)に至った。18年のインフレ率は6万5000%、19年が1万9000%。18年、19年が高すぎるため、両年以外が低く感じてしまうが、ベネズエラのインフレ率は常に30%前後で推移しており、15年からは三桁を突破している。
 反対側の経済成長率は二桁のマイナス成長が普通で、実質の生産(実質GDP)はひたすら縮小していった。13年から20年までの期間だけで、実質GDPは74%減少。財やサービスの生産「量」が4分の1になってしまったのである。
 ベネズエラは16年以降、貧困率等を公表していないが、国際貧困ラインを下回る生活を送る人を含む貧困層の割合は、95%を上回っているとされている。
 実質GDPとは「実質の生産量」である。実質GDPが小さくなったとは、実質の財やサービスの生産能力が消滅していったこととイコールだ。生産能力が無ければ、生産できない。ベネズエラのハイパーインフレーションは、同国が「供給能力」を喪失していったことを証明している。実質GDPとは、財やサービスの供給能力の結果なのである。
【ベネズエラの実質GDP(2008年=1)】出典:IMF
【ベネズエラの実質GDP(2008年=1)】出典:IMF

 ハイパーインフレーションを受け、ベネズエラは13年間で3度もデノミ(通貨切り下げ)を実施した。3回のデノミで、合計14桁の切り下げが行われた。つまりは、10兆ボリバルが1ボリバルに切り下げられたのである。
 なぜ、こんな事態になったのだろうか。政府の失政の結果なのである。1999年のチャベス政権発足以降、主力産業だった原油ビジネスの国有化を強行し、その結果、多くの技術者がベネズエラを去り、原油の生産能力が落ち込んだ。さらに、チャベス政権が反米路線を採ったことを受け、アメリカは2017年以降、経済制裁を続けている。
 元々、ベネズエラは原油依存の経済だった。原油を輸出し、外国からありとあらゆる物を輸入。ゆえに原油輸出が減少すると、貿易赤字が巨額化し、通貨ボリバルの価値はひたすら落ちていった。すると、ますます輸入物価が急騰する。政府は財政支出のために、紙幣の増発や債券発行の急拡大を行い、ハイパーインフレーションに至った。
 例えば、5㌔㌘2000円のコメが、20万円になってしまったと想像してみてほしい。政府は公務員給与や公共サービスの支出に際し、同じ金額を支払うわけにはいかない。物価が百倍になったにもかかわらず、給与の額面が同じでは、みな飢え死にしてしまう。
 というわけで、政府は支出の際に額面を増やす。すると、インフレ率はますます高まり、為替レートは暴落。輸入物価が高騰し、国内のインフレ率はさらに上昇する。政府はそれまでと同じ金額での支払いをするわけにはいかず、額面を増やす――と、悪循環がひたすら続き、ハイパーインフレに至るのだ。
 あまりの物価の高騰に、多くのベネズエラ人は物資やサービスにアクセスできず、移民として流出。すでに、国民の四分の一が海外に逃げてしまっている。それにもかかわらず、マドゥロ政権は政策を改めず、一部のオリガルヒ(政商)と結託し、独裁政治を続けてきた。アメリカによるマドゥロ大統領拘束を受け、多くのベネズエラ人が歓喜の声を上げたのは、無理もない話なのだ。
 もちろん、国内生産が減った分を、輸入でカバーするという「統計的な考え方」はありえる。輸入はGDPの控除項目であるが、実質GDP減少分、輸入が増加した、あるいは輸入増によって実質GDPが減ったならば、国民の生活水準は維持されていることになる。とはいえ、現実には、ベネズエラの輸入はピークの2012年から19年にかけ、11%にまで縮小してしまった。輸入が数年で10分の1になってしまったのだ。反対側で、国内の生産(実質GDP)も減少を続けた。つまりは、ベネズエラ人がアクセスできる財やサービスがひたすら減っていったことになる。同時に、通貨の価値もひたすら落ちていった(同じ話だが)。
 生きていけるはずがない。まさに「国民経済の失敗」だ。ベネズエラ経済の崩壊は、国民経済にとって最も重要なのはカネではなく、供給能力であることをまざまざと教えてくれる。