シャウプの場合は、売り上げ―売上原価で計算される粗利益に、減価償却を考慮し税率をかけるため、インボイスは不要である。単純に、企業の「粗利益≒付加価値」に課税するだけだ。当然ながら「課税売り上げ」「課税仕入れ」といった概念がないため、輸出戻し税は存在し得ない。そういう意味で、シャウプの付加価値税こそが、本来的な「付加価値」税だ。
1954年、ローレがシャウプのアイデアを窃盗し、変形する形で、現代式の付加価値税を考案する。ローレ案の特徴をまとめると、
- 財とサービスの提供の「全て」に課税される
- 全ての取引段階に課税される(というわけで、筆者は消費税を「取引税」と呼んでいる)
- 仕入れ税額控除を全ての段階に適用する
であった。シャウプ案との相違は、仕送り状(インボイス)を単位とする課税の延長線上の「付加価値税」であるという点である。計算方式は、課税売り上げから課税仕入れを控除する方式であり、これを「インボイス方式」と呼ぶ。
ローレ案はバリューチェーン全体、つまりは商流全体に課税する。その上で、輸出企業の課税売り上げに対する税率を0とすることで、輸出補助金が実現する。具体的には、それまでの商流全体が負担した税金を、輸出企業に還付する。その場合、商流全体が支払った税額を把握しなければならないために、インボイスは必須である。
実は、付加価値税の歴史はインボイス方式と軌を同じくしているのだ。シャウプ型の付加価値税(=(売り上げ―売上原価)*税率)を採用していれば、インボイスは不要だった。
ところが、ローレ式の付加価値税がフランスをはじめ各国に普及していくことで、インボイス方式が「当たり前」になっていったのである。
ここで、仕向け地課税主義について触れなければならない。仕向け地課税主義とは、生産された場所ではなく、製品やサービスを消費する国で課税するべきという考え方だ。日本からの輸出の場合は仕向け地が「外国」になるため、日本国内で課税できない。というわけで、輸出企業は付加価値税(日本の消費税)が「免税」となる。
財務省は、「輸出企業は輸出先で消費税分の価格転嫁できないから免税」と説明しているが、嘘っぱちだ。そもそも、付加価値税(日本の消費税)の根底に仕向け地課税主義があるのである。そして、仕向け地課税主義とローレの付加価値税の考え方を組み合わせると、政府が一円も支出しない輸出補助金が実現する。
どういうことなのか。2024年10月に日本で導入されたインボイスでは、請求書に「価格」と「消費税」を明記することが義務付けられている。そうなると、売り上げの「消費税」分を積み上げ、仕入れの「消費税」分を差し引き、積み上げることで、バリューチェーン全体の消費税額(付加価値税額)が計算されることになる。
最初の生産から販売、生産、販売、生産と繰り返し、最終的に消費者の手元に財やサービスが届く。そのバリューチェーン全体に課税するというのが、付加価値税の発想だ。結果的に、「消費税額=課税売り上げ*0―課税仕入れ÷110*10」という形で、輸出企業に補助金を出すことが可能になったのである。
付加価値税は、1954年にフランスがルノーを救済するために導入したのが始まりだ。
47年10月、ジュネーブで23ヵ国がGATT(General Agreement on Tariffs and Trade)に調印し、48年1月に発効した。GATTの第16条4項(輸出補助金の禁止)では、一次産品以外の輸出産品に対し、国内市場の買い手が負担する同種の産品の比較可能な価格より「安い価格」で輸出するため、販売することになる「いかなる形式の補助金」も、直接、間接に供与することを禁止している。GATTに加盟した国々は、農産物などを例外とし、国内価格よりも安価で輸出すること、厳密には安価な輸出のために政府が補助金を出すことは禁じられたのである。要するに、輸出補助金によるダンピングの禁止だ。
それにもかかわらず、フランス政府はルノーに補助金を出したかった。というわけで、フランス政府が導入したのが、ローレ式の付加価値税なのである。ローレ式を採用することで、政府はGATTの規定に反することなく、堂々と国内輸出企業に補助金を出すことが可能になった。何しろ、輸出戻し税(あるいは輸出還付金)であり、輸出補助金ではない。しかも、政府が補助金を負担しているわけではない。負担しているのは、バリューチェーンの各段階の企業なのである。
WTOの定義では、輸出補助金とは「政府から企業への補助金」である。輸出戻し税の還付は、下請け(以降、消費税を負担しているさまざまな企業)が納税した消費税の「輸出企業による総取り」であるため、輸出補助金には該当しないという仕組みなのである。
改めて考えてみるとすごい話だ。そもそも、輸出企業は付加価値税を免除されている。その上、自分が仕入れた財(あるいはサービス)に関連した各企業が負担した消費税の還付を受けている。付加価値税(日本の消費税)とは、要するに形を変えた輸出補助金なのだ。























