国連がIEA(国際エネルギー機関)、世界銀行、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)などと協力して作成した報告書「エネルギー転換の好機をつかむ:再生可能エネルギー・効率化・電化がエネルギー新時代を加速する」が今年7月に公表され、9月には日本語版も自然エネルギー財団により発表されました。
 アントニオ・グテーレス国連事務総長は、再生可能エネルギー技術の急速な進歩が経済成長と環境持続可能性に重要な機会をもたらし、歴史上類を見ない決定的な瞬間にわれわれが立っていることを強調しています。

コスト低下で競争力向上し転換加速


 まず注目されることは、再生可能エネルギー(以下再エネ)の急成長とエネルギー転換です。再エネ技術は過去10年間で劇的に進展し、化石燃料からの転換が加速しています。2024年には、再エネの新規導入設備容量が585G㍗(1G㍗=10億㍗)となり、全電源の92・5%を占めました(15年の3・8倍)。一方、化石燃料は43G㍗にとどまりました。累積設備容量では、再エネが4448G㍗(15年比+141%)、化石燃料が4548G㍗(同期間+16%)となり、ほぼ半々。発電量のシェアでは再エネが32%。蓄電容量は 89G㍗(15年比+4350%)となっています。
 次に注目されるのは、再エネコストの急速な低下と競争力の向上です。太陽光発電コストは10年から24年にかけて68%低下し、平均4・3米㌣/㌔㍗時になっています。陸上風力発電も55%低下し、平均3・4米㌣/㌔㍗時です。蓄電池のコストも10―23年に93%下がっています。24年には新規再エネ発電プロジェクトの91%が、最も安価な新設化石燃料発電所よりも低コストで電力を供給しています。

再エネ拡大は経済成長の原動力


 クリーンエネルギー分野は、今や経済成長と雇用創出の原動力です。24年のクリーンエネルギー投資は初めて化石燃料への投資の2倍の2兆米㌦を超え、再エネ発電には7600億米㌦が投資されました。(注:クリーンエネルギーの定義は出典により異なるが、IEAは、再エネ発電、電気自動車、ヒートポンプ、エネルギー効率化対策、原子力などを「クリーンエネルギー技術」と定義)
 23年にはクリーンエネルギー分野の雇用が3480万人に達し、再エネ分野の雇用は1620万人となりました。クリーンエネルギー分野は、世界GDPに約3200億米㌦を寄与し、GDP成長の10%を占めています。

エネルギーアクセスの拡大


 23年末時点で、世界人口の6億6600万人がいまだ電気を利用できておらず、特にサハラ以南アフリカでは約5億6500万人が利用できません。30年までに普遍的な電力アクセスを実現するためには分散型再エネの活用が不可欠です。分散型再エネは、電力アクセスのない人が住む農村部にも電力を届けられるからです。
 現在独立型オフグリッド太陽光の恩恵を受ける人は累計4億9000万人です。電力へのアクセス拡大は、生活向上・貧困削減・健康・教育・女性のエンパワーメントなどに貢献します。例えば、いまだに21億人がクリーンなクッキングにアクセスできず、家庭内大気汚染で年間320万人が死亡しています。エネルギー転換は人間開発であり、エネルギーアクセスとレジリエンスの向上に寄与します。分散型で多様化した再エネシステムは、災害への対応と長期的な気候レジリエンスにも効果をあげます。

エネルギー安全保障と経済的便益


 現在、世界の74%が化石燃料の純輸入国で、価格変動や供給混乱に対して脆弱です。一方、再エネ導入により、23年までに4090億米㌦相当の化石燃料費が削減されました。再エネは、長期的にエネルギーコストを削減し、持続可能なエネルギーシステムの実現に寄与します。
 エネルギー転換は、温室効果ガスの削減だけでなく、エネルギーの安全保障、アフォーダビリティ(手頃な価格)、アクセスの向上、雇用創出、経済成長、産業競争力強化などの社会経済的便益をもたらします。特に、再エネの導入が、貧困削減や健康、教育の改善にも寄与します。

再エネ拡大への政治的・経済的障壁


 以上のような進展があるものの、再エネ拡大には依然として大きな政治的・経済的障壁が残っています。
 例えば、再エネ導入の地理的分布は偏り、先進国、中国、インド、ブラジルに集中、中国以外の新興国・途上国への投資は全体の15%に過ぎません。化石燃料のロックインという課題もあります。24年には、石炭611G㍗、石油・ガス800G㍗が開発中であり、22年には7兆米㌦の直接・間接的な化石燃料補助金が支出されました。
 また、AIやデータセンターによる電力需要の構造的増加が予想されます。データセンターの電力消費は24年には415T㍗時(世界の1・5%)でしたが、 30年には945T㍗時(日本の年間電力消費相当)と予測され、そのすべてを再エネで賄わなければ、カーボンロックインが続きます。
 さらに、インフラ面でのボトルネックもあります。送電網接続待ちの再エネプロジェクトが3000G㍗超あり、また送電網・蓄電への投資は発電設備への投資に比べて大幅に遅れています。長期戦略が欠如し、化石燃料システムの制約下での「移行中間期」への政策的対応が遅れているのです。
 これらの障壁を克服し、クリーンエネルギーの未来への移行を加速するために、即座の行動が必要であると報告書は訴えています。