名作『怪談』を書いた小泉八雲の妻・せつをモデルにしたNHK朝ドラ『ばけばけ』は、次第に面白くなってきた。『虎に翼』『あんぱん』と、太平洋戦争を挟んだ時代を描いた傑作が1回置きに続いたので、今回の明治初頭の話に微妙な期待の人も少なくないようだ。が、小泉八雲好きとしては期待したいところではある。
 さて、そんな「お化け」が話題になっているのは、朝ドラだけではない。またまた永田町に魑魅魍魎が跋扈してはいないか。
 以前、本連載で「気の利いた化物は引っ込む時分」ということわざを紹介し、それを通じて、当時の永田町を皮肉ったことがある(「気の利かない化け物が居座る時分?または、政治家の賞味期限と消費期限について?」(2024年6月号)。
 当時、国会議員としては最高齢85歳の元自民党幹事長が、報道陣の引退質問に「バカヤロウ」と応じたことを話題にした。今回、またまた現職最高齢85歳の国会議員が影響力を誇示・駆使したことを取り上げたい。
 ちなみに、「気の利いた化物は引っ込む時分」ということわざとは、「長居をしたり、その場や地位に適当でなくなった者は早く引き下がるべきだと、人をうながす言葉であるとともに、自己を省みる意」である(時田昌端『岩波ことわざ辞典』岩波書店、2000年)。

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 八:おい熊、ここんとこ、お前は、日本中に出没して迷惑をかけているらしいじゃねえか。
 熊:バカ言え、あれは本物の熊だよ。
 蔦重:肥後熊本の「くまモン」が全国の仲間を仕切ってくれりゃいいのになぁ。
 八:本物の熊どもにも、そろそろ「引っ込み際をわきまえろ、気の利いた熊は冬眠で引っ込む時分だ」って言っとけよ。
 熊:たしかに、引っ込み際をわきまえない奴は、気の利かない野暮天だよな。

早苗の陰に晩苗


 蔦重:ところで、早苗姉さんが、女で初めて老中首座になったんですね。
 古琴:わが国で初のことだ。それ自体はめでたい。ただ、相当な勉強家で実力もあるらしいけど、中味は相当古いって噂だな。
 八:何やら「働け、働け」「自分みたいに頑張れ」って言うらしいっすね。
 蔦重:何やら今の老中首座、「ふんどし」に似ていませんかね。
 古琴:たしかに、お前さんを「身上半減」にした松平定信様に似ているな。
 熊:夫婦は同じ姓で構わんとか、弱いもんには厳しいらしいな。
 八:ないことを、あたかもあったように言うらしいし…。
 熊:ところで早苗とは、稲の苗で、苗代(なわしろ)から田に移し植える頃のモノってこったろ。
 八:「実るほど、頭を垂れる稲穂かな」って言うよな。早苗では実ってないから、頭を垂れないのはあたりまえか。
 蔦重:反対は晩苗と書いて「おそなえ」と読むらしいぜ。
 熊:え、おそなえって言えば、お墓や仏壇への「お供え」と一緒じゃねえか。縁起でもねえ。
 八:そいつが早苗を裏で牛耳っているって噂。何やら、早苗を表に出すために、自らの派閥を総動員して、老中首座獲得に動いたらしいな。
 蔦重:勝ち馬に乗るってのはあるけど、自分の派閥を率いて自ら勝ち馬をつくり、それに乗る。派閥は政策集団だから解散はしねえなんて言っていたから、策が合致する奴を押すかと思っていたら、策ではなく、勝ち馬になって自分たちに都合の良い仲間を押し込む。それって、節操がねえんじゃないっすかね?
 古琴:確かに、賄賂でいろいろ言われた奴らを送り込んだので、顰蹙を買っているな。
 蔦重:そこで、身綺麗にしたい公明藩の殿様がぶち切れちまったらしいっすね。今まで30年近く一緒していたのに。
 八:それで、「下駄の雪」なんて言われ続けたけど、我慢の限界、三行半を突き付けたってわけか。
 古琴:雪はくっついても離れても、別に大騒ぎにはならない。「切れて困るは鼻緒」。つまり、あの藩は小藩とはいえ、ワシらは鼻緒だぞ、と言いたかったわけだ。
 蔦重:幕閣から退いたけど、「出るも地獄、残るも地獄」といった心境だったのかもな。
 八:江戸っ子は、ケツまくって啖呵を切る奴を見直すもんでさ。よくぞ、やったってね。
 熊:火事と喧嘩は江戸の華だぜ。
 八:こら、物騒なこと言うな(パチッ)

旬な時期、味が深まる時期、


そして…

 蔦重:早苗を牛耳っているのは「晩苗」ではなく「老苗」かもしれねえな。
 熊:頭を垂れずにふんぞり返っている奴ってことかい。
 八:老苗は「ろうびょう」と読むけど、「ろうびょう」と聞くと老猫を思っちまうな。化け猫かね。
 古琴:ま、魑魅魍魎だな。それにしても、老練から老獪を経て老醜にならんでほしいな。
 蔦重:ところで、江戸城内は昔から魑魅魍魎、化け物どもが跋扈するところらしいですね。今回の化け物が裏に見え隠れするのは、何なんですかね。
 古琴:どうも、一橋治済様みたいだね。陰から美味い汁でも吸えるのかもしれないね。
 熊:背後霊みたいなもんですかね。
 八:ちょっと違うんじゃねえか。
 蔦重:ところで幕閣老中に適しているかどうか、どんな甲斐性が要るんですかね。
 古琴:そうさな、一つ目は「自制心」。権力を担うからにはこれが求められる。二つ目は「自尊心」。先の世のお札になるような偉い人で、福沢諭吉という先生がいるけど、その人は「独立自尊」といった。自分を適切に尊ぶ者は、他者への敬意を抱くものだ。
 三つ目は、「学ぶ力」。人様だから失敗・失言はありえる。だが重要なのは、それに「気づき・学ぶ」そして、どうすれば良いかを考える力だ。
 これらの甲斐性がなかったら、老中になっちゃいけないね。また、その甲斐性がなくなってきたら、その知恵を若い連中に引き継ぐ。それができなくなっても居座ったら、先の世で言う「賞味期限」も「消費期限」も過ぎてしまった証しだな。
 蔦重:「旬」の時や味の深まる時期、味は落ちたとしても経験と知恵で役立つ時期、後進を育てる時期、そして引っ込む時分か…確かに、それを自ら律しないといけねえな。
 古琴:おっとこんな時間だ。長居をしてしまった。失敬、失敬。
 熊・八:あれ旦那、もう少しどうですか。
 古琴:いや、気の利いた化け物は引っ込む時分だろ。これ以上居座ったら、野暮ってもんよ。

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 今回も、自分自身の消費期限と賞味期限はいつまでか、それを自問自答しながら、反省を込めてお話しさせていただいた。