熊:米国藩のトラ殿様は、ますます好き勝手してるようじゃねぇですか。
八:気に食わない奴には戦を仕掛け、もう片方では何やら泰平の世をつくりたいなどと、のたもうているらしい。
蔦重:それって偽善じゃねぇのか。
古琴:いや、そうとも言えないよ。後の世に、独逸という藩でヒトラーという殿様が暴れて、諸国に大迷惑をかける。他の藩に攻め入ったり、ユダヤという人々を虐殺したりした。そのヒトラー殿様と同様の「独善家」ではあるけどな。
蔦重:「独善家」…、「偽善家」ではねぇんですか?
古琴:偽善家ではないよ。ヒトラー殿様は自らの「善」を疑わず猛進したのであって、別に「偽善」をするわけではない。同様に、トラ殿様も「偽善」家ではない。自らの「善」を疑うことなく猪突猛進、いや虎突猛進しているだけだ。つまり、独りよがりという点では似ている。
蔦重:なるほど、偽善というより、自分の善しか信じない「独善」ってことか。
古琴:ヒトラー殿様もトラ殿様も、折り紙つきの独善家だね。多様な善をすり合わせしながら、どのように現実的な道を検討・選択していくのか、そこには「政治的偽善」がいるけどね。
八:トラ殿様は、俺はこんな良いことをしてきたから、褒美、え?っとノーベル平和賞てんですか、それをよこせって、わめいていらしいですね
熊:それは野暮じゃねぇのか。自分のことを誉めろなんて周りに言うのは、江戸っ子から見ると野暮の骨頂だね。
八:さりげなく、皆が誉めてくれるように仕向けるのはまだしもだけどな。てめえで言うと、それだけ逆に小さく見えてしまうな。
蔦重:粋じゃねえな。

「自民党」は何の略か



古琴:ところで、密かに出回っている「未来史年表」に最近改訂版が出たらしい。耕書堂、お前さんのところでは扱っていないかい?
蔦重:え、知りやせんぜ。どうしたんです?
古琴:それによると、先の世で天下を取り続ける「自由民主党」という政(まつりごと)を担う連中がいるそうだ。その略称が「自民党」だとされているが、最近はどうも「自民党」とは別の名称の略に変わったという噂なんだよ。
八:どういうことなんで?
古琴:「自由民主党」の略ではなく、「自国民族党」の略だということらしい。
蔦重:つまり、日の本(ひのもと)の中で、我が国の者だけをありがたがって、異国から来た人は邪険にするということですかね。
古琴:さすが耕書堂、その通りだな。

「自由」とは勝手気まま?



古琴:ところで、お前さんたち、「自由」って、どんな意味で使っているのかね?
八:え、そりゃ「思ったままに振る舞う」ってこってしょ。良い意味でも悪い意味でもありまさぁ。熊公みたいに、出たとこ勝負、勝手気ままにやるのも「自由」じゃないすか?
熊:おい八、好き勝手言いやがって(バシッ)。
八:俺も「自由」にものを言ったってこったな(苦笑)。
蔦重:旦那、それ、別の意味があるんですか?
古琴:噂を聞いていないか。未来に出る書物、『たとえば「自由」はリバティか』という本が評判だ(注1)。
八:へえ、どんなことが書いてあるんすか?
古琴:「自由」というのは、私達の時代では八っつあんの言うとおり、良くも悪くも「思い通りにする」というような意味だ。ご公儀的に規律を求める方々の間では、あまり良い意味ではないかもしれないがね。
蔦重:確かに、あっしも「自由奔放」に生きているって、お上に大分絞られました。
八:たしかに、耕書堂は「身上半減」なんてくらっちまったし、すげえよ。
古琴:そうだな。蔦重は先の世では、べらぼうに高く評価されるはずだよ。
蔦重:そうですか?、そうだと良いんですが、なんせ先の世では「評判は下から二番目」だそうでして(注2)。
古琴:解せないね。そっと先の世のテレビなるものを覗いてみたのだけど、それこそ、べらぼうに良くできた話だった。役者も、演出も、楽曲も、べらぼうに良かった。どうも読者が追いつけない本があるのと同じで、視る者の程度と合わなかったのかもしれん。
熊:オレ達、江戸っ子には、あの江戸言葉と言葉遊びが楽しいって評判ですがね。田舎もんが多くなっちまったかな。
八:こら、言葉を慎め、地方の方に失礼だろ(バシッ)。

「自由」な国はやりたい放題できる?



古琴:ところで、先の世に「幕末」という時代が来る。海の彼方からいくつもの西洋の国が我が国を訪ねて、「商いをしよう」と言い寄るんだな。西洋の国々は基本的に制約のない国なので仲良くなれるはずだ、貿易相手として最適だと言ってくる。
蔦重:ほう、それは良いことですね。源内先生も、もっと我が国は門戸を開いた方が良いと、盛んにおっしゃってましたぜ。
古琴:ところがその時、長崎の通詞がエゲレス語の「リバティ」という言葉を「自由」と訳してしまうのだな。
八:え、それって西欧は「勝手気まま、好き勝手な国々」で、それが「やりたい放題させろ」と言っているように聞こえますぜ。
蔦重:八っつあん、今日はさえているね。熊公が冬眠しているからかね?
熊:うるせい、蔦重(バシッ)。
八:で、どうなるんですか?
古琴:見事に、決裂するそうだ。
蔦重:その本には、そんな逸話が入っているのですか?
古琴:ああ、「自由」の他に「権利」「法」「自然」「公/私」「社会」とあるようだ。
蔦重:読みてえな。耕書堂に持ち込んでくれないかね。
八:また、禁書扱いになってお縄を頂戴しねえか。心配だぜ。
蔦重:ということで気づいたのですが、自由民主党の「自由」は、オレ達の時代のように「勝手気まま」「好き勝手」という意味で使うわけですね。
古琴:さすが察しが速い。自民党とは、いつの間にか「金権まつりごと」や「やりたい放題」の「自由」をし過ぎて「独善」に陥り、人心が離れてしまうんだな。それを取り戻そうとして、自国民族優位だと強がる名称に衣替えするってことのようだな。そう未来年表の改訂版に書いてあるらしい。
熊・八・蔦重:なるほど、そりゃ野暮の骨頂だ。
~~~~~~~~~~~~~~~ 
正月の与太話、お粗末様でございました。今年も、どうぞよろくお願いします。

〈注1〉『たとえば「自由」はリバティか?西洋の基礎概念とその翻訳語をめぐる6つの講義』岩波書店、2025年
〈注2〉NHKの大河ドラマ『べらぼう?蔦重栄華乃夢噺?』の平均視聴率は、歴代ワースト記録2位だった