著者は若いころ、企業で研究所長などを拝命していた。また退職した後は大学教授として主として文科省の仕事などで海外に出ることが多かった。必然的に前半は先進国ばかり、後半はほとんどが発展途上国だった。
 地域はさまざまだったが、著者が抱いた感想は、世界のどこに行っても日本人に対して強く好意を持ち、尊敬心を持って接してくれたことだ。
 他の国のことをあれこれ言う気持ちはないが、「東洋人の中でも日本人は尊敬できる、好きだ」と言われたことが多い。人種差別の強い白人の国でも「日本人なら」と言ってレストランなどに自由に行くことができたのも印象的だった。
 そして、その時には常に「日本のご先祖様」に深く感謝したものだ。白人で有色人種に差別感を持っている人も、「日本人は才能もあり、勇気もある」と一目置いてくれるし、一般人は「日本人は丁寧で礼儀正しい」と言ってくれる人もいた。話をすると、戦争の時の軍隊の規律や勇気、武士道精神、ビジネスでは、製品が優れていて、うそやごまかしがないという点を褒めてくれる人もいた。
 また、「日本人の子どもはしっかりしていて手本となる」として、子どもたちにそれを教えているという国では、子どもたちが著者と一緒に写真を撮りたいと求めてきてうれしかったこともあった。
 20世紀初頭、世界はうち続く戦争や植民地支配の時代だったが、日本だけがアジアの中で独力で独立を保ち、白人と対等に頑張ったということを評価する人もいた。
 人種で差別することは決して望ましいことではないが、彼らの差別感は単に肌の色だけではなく、人間としての人格、努力や才能に対する尊敬心なども感じられた。
 それらは当然だが、日本独自の徳目、努力、正直さ、他人に配慮する心などに対してであり、人種だけに注目したものではないことを感じたものである。また、そういう考え方はアメリカ人、ヨーロッパ人だけではなく、アジア諸国の人も歴史を通じた日本人の努力と実績に対して尊敬していると思う。

自国を低評価し良さ破壊


 現在は日本の首相までが、20世紀の戦争の時代を必死に過ごした日本人や日本の政治や軍事を批判したり、反省したりするが、かえって外国人の方が戦争の時代の日本人の振る舞いを高く評価し、尊敬してくれる人が多いのは実に奇妙である。
 アジアやアフリカのほとんどが白人の植民地になって呻吟したころ、彼らの胸の中には日本人に対する尊敬心や、「本当は自分たちも日本のように頑張らなければならないのだ」という気持ちが強かったのである。
 そうした日本人の先輩たちの努力と判断によって、著者の世代が気持ちの良い海外生活を送ることができたのだから、「ご先祖様たちのおかげ」と深く感謝したくなるのは、人間として当然の感情と思う。
 しかし、多くの産業人が感じているように、日本人の真面目さ、正直さ、他人に対する態度、祖国を大事にする気持ちなどが、「現代の日本の指導層のふるまい」によって汚され、それが徐々に若者にまで及んでいる。このことを日本の大人はどのように思っているのだろうか?
 中京地区はモノづくり産業が中心なので、古き日本の伝統がかなり守られているが、日本の中心であるべき東京の人間の心の乱れは尋常ではない。「今だけ、金だけ、自分だけ」という言葉が人口に膾炙しているが、そのこと自体が極めて遺憾である。
 縄文時代以後、日本は日本人の手によって優れた文明、精神的な支柱、技術、人の和をつくり出してきた。それが明治以来、わずか200年を待たずして崩壊しつつあり、その原因が、現代の日本社会を作る大人たち、つまりわれわれの手で行われているのが、著者には我慢できないほどつらいのである。

世代をまたぐ影響


 われわれ現代の日本人が、世界のトップクラスの社会と生活、技術の中にいて、人生を幸福に過ごすことができるのは、われわれ自身の努力だけではない。と言うより、そのほとんどは欧米などに対して貧弱な住居、食事、生育環境の中で、必死に産業を盛んにし、命をかけて国を守った結果であり、それを行ったのは「われわれ」ではなく、「われわれの祖先」であった。
 現世代の人の幸福は、前の世代、あるいは前の前の世代の人からの贈り物であり、仮にわれわれが日本社会を崩し、日本の技術レベルを落とし、人格を曲げたなら、その影響はわれわれではなく、われわれの子どもや孫が悲惨なことになる。それは誰もが認めることだろう。
 国会議員が自分の権力やお金のことだけを考えている者ばかりであることは、今回の首相の決定過程で露骨に示された。難しい政治状況、日本の経済力の低下、難しい子どもの教育環境など、難問ばかりの時期に行われた首相の決定過程において、「日本をどうするか?」に言及した議論はほとんどなく、権力闘争、それも井戸端会議クラスのゴタゴタに終始したことでも明らかである。
 著者は政治も学問も期待できなくなった日本において、実業を旨としている日本の産業界が日本を立て直す最後のよりどころであるように感じる。