しかし、第一次世界大戦で1000万人以上、第二次世界大戦で6000万人以上というとてつもない大きな犠牲者を出した後、さすがに人類は近隣諸国との間のトラブルに対し、武力に頼らない解決方法を模索してきた。
だが、これは簡単なようで非常に難しいことである。
非常識な事態が発生
近隣諸国であるから民族も文化も類似しているので、本来、相互理解がしやすい。そこで、武力によって問題を解決するというのではなく、話し合いや経済協力などで普段から結びつきを強くし、お互いの利害の衝突が武力衝突まで行かないように努力してきた。
ところが最近の日本と中国、もしくは日本と韓国の間の軋轢を見れば、それは非常に遠い未来になったと思われる。
特に高市政権になってから、日本の首相が国会で示した考えに対して、大阪中国領事館総領事という立場にある人が、日本の首相を「殺してしまえ」とも解釈できる発言をしたという事は、極めて重要なことである。さらに、それが発言した中国側の即時の謝罪によって解決するのではなく、むしろ慎重に発言した日本の方がとがめられるという、日本人の感覚では理解しがたい状態になってしまった。
この極めて非常識なことによって、もし日本と中国が紛争に至るということがあれば、「人間の英知はどこにあるのだ?」という問題に発展するであろう。その事態は、われわれの日常的な文化的、道徳的行動とあまりにかけ離れているのは間違いない。
国家として異なる歴史
筆者はこの問題を日本と中国の間の、長い歴史の問題として捉えてみた。
日本は明らかに「国」である。それも4万年前に旧石器時代の文明が発生し、その後、縄文時代や弥生時代を経て、日本はずっと長い間、日本民族によって、文化や言語、稲作などを徐々に作り上げ、短く見ても、紀元前200年ごろには、まとまった国家として形態をなしてきた。
その後はよく知られているように、天皇陛下を中心としてまとまっている一つの国として「日本国」という名称を使い、近隣諸国である朝鮮半島や中国の王朝と密接な関係を保ってきた。
かつて、日本文明は中国文明の一種であると考えられてきたが、20世紀になって世界の文明が詳しく研究されるようになり、日本文明と中国文明は内容的に大きく違うことが明確になった。そこで世界八大文明の分類が定義され、日本は中国文明に所属することなく、独立した文明、すなわち「日琉文明」に分類されるようになってきた。
では、日本が中国文明の一つでなく、独立した文明として認識されるようになったのは何が要因であろうか? そしてそれこそが、現在の紛争の原因になっているのではないか?
筆者の見解では、日本と中国は隣国であり、文字や建築物の形、国の制度などが極めて類似しているところがあるにもかかわらず、国の基幹の構造は全く異なる。
中国は4000年ほど前、夏、殷、周という王朝から始まり、前漢に至って中国全土が安定したわけであるが、その前は、はっきりとした漢民族とは定義されていない。民族がはっきりした前漢の時代から、本来の中国に存在した「漢民族の王朝」と、その王朝が滅ぼされ「異民族」が中国を統治した時代に分けてまとめると、漢民族が支配した王朝は、前漢、後漢、宋、明、現在の中華民国および共産中国の六王朝(国)だけである。
もともと漢民族が住んでいた中国が漢民族のものであった時代は、紀元前から現在までに至る2231年の間のわずか997年である(宋のような中国全土を支配していなかった王朝については支配する国土面積に比例して換算)。
つまり、日本と中国がその点で大きく違う。日本はほぼ単一民族で形成され、四方が海であったこともあって、2200年間ほぼ単一民族が単一国家を形成していた。それに対し、中国は広大な領地でもあり、極めて多数の民族が混在している地域である。その中心となる漢民族の王朝が支配していた「漢民族支配の時代」ですら、わずか45%(約997年)しかなかったのである。
多くの歴史学者、例えば岡田英弘先生などの高名な歴史研究家の論文を見ても、後漢の終わりに異民族支配に変わった時、殺害された漢民族は全国民の6割から8割に上る。ほとんど中国全土で異民族への交換が起こったと言える。
大きな違いを前提に
約2000年もの間、単一民族、単一国家であった日本と、自国民と異民族が交代していた中国では、「国家」とか「国民」ということへの意識が大きく違うのは間違いない。
かつて日本と清国が戦争したときに、相互に激戦を経験した両国の軍隊は、国家に対する考え方の大きな差を痛感したものである。
日本人の感覚から言えば、中国人は国という概念が明確でなく、領土という意識も日本のように強くない。このことを現在の大きな日中間の国際問題に対して、われわれは深く慎重に考えなければならないだろう。中国人は日本人ではなく、中国の歴史は日本と全く違う歴史なのだから。























